たしかにあなたは悪魔に違いない
     どんなに優しくてきれいな姿でも
     その目を見れば判る。
     おお、その忌まわしい瞳!
     金色の悪魔の瞳!
               ――イスメーヌス
              「悪魔の花婿」より




     第二楽章 悪魔の舞踏曲




 アトが宮廷に勤めはじめて一週間になる。サライを教官にしてのスペルの特訓もそれだけになる。宮廷のお仕着せも振舞いもだいぶ板に付き、慣れてきたが、もう一つの方は全くであった。
「駄目だ。何回言ったら判るんだ? ただ腕に力を入れたって何にもならない。もっと自然でいいんだよ」
「すみません」
「謝ることじゃない。覚えてくれればいいんだ。それじゃあもう、今日はこれで終わりにするよ。続きはまた明日だ」
「……はい」
 おぼつかない答えを聞いたのか聞かなかったのか、サライはさっさと行ってしまった。彼はアトのために一日を潰せるほど暇ではない。せいぜい長くて一テル程度が限界だった。アトにしても同じであった。二人が使っている練兵場は観兵式などに使うもので、普段使う軍はない。その一角にアトはぽつんと佇んでいた。
「私だって……好きでこんな事しているんじゃないのに」
 アトは独りごちた。
「大体わたしが悪魔を殺したって証拠もないのに、どうして訓練なんかしなくちゃいけないのかしら」
 そういう疑問を一度でも持ってみると、ますます嫌になっていく。アトは拗ねたようにかすかに青みがかった黒髪を後ろに払うと、双子宮に戻った。それ以外の事ならここでの生活はほんとうに申し分のないものだった。着るものにも食べるものにも困らないし、毎日同じ食べ物ばかりで飽きるということもない。
 ふと空を見上げた。
 この前見た夢に出てきた少年は、思い出すたびにサライに似ているように思えた。あの夢が本当なら、サライは自分でもコントロールする事ができないほどの実力の持ち主だということになる。
「それなら何故こんな仕事を続けているのかしら」
 アトは呟いてみた。もしかしたら嫌でも昔の功績だけでもてはやされて、仕方なくやっているのかもしれない。そう思うと、何だか可哀想にも思えた。空は彼女の瞳と同じ深い青色になっていた。
「隊長!」
「何だいバーネット」
 苛立ったような声に、サライは振り向いた。
「隊長はあの少女に時間を割きすぎてはいませんか? たしかに、彼女の力を最初に報告したのは私ですが、彼女には全く成長が見られません」
 赤髪の青年は不快感をあらわにして言い捨てた。第一隊の副官である彼の名はバーネット・ルデュランという。血統としてはティフィリス系であるが国籍はクライン、彼の父ローレイン伯爵ワルター・ルデュランは議会の長をつとめるほどの人望の厚い人物で、彼自身もすでに子爵の地位を与えられている。また、サライよりも六つ年上であるけれど、サライを隊長としてこよなく敬愛する実直な青年であった。
「確かにそうかもしれないけれど、君も見ただろう。私たちが助け出す前にあの子は自分の力で悪魔を殺していた。あのスペルは普通のものじゃない。エレミヤの一族なら混血でもないかぎり、その力は風神エレミルに依存するから風として現れるはずなのに、あの子のスペルは悪魔を殺すのではなくて『消した』んだ。そんな特別な力をみすみす放っておけないだろう」
「しかし偶然かもしれません。もともと持っているスペルを一瞬で使い果たす人間はいくらでもいますし」
 サライは少し、困ったような表情になった。
「……。ならこうしよう。明日、君の見ている前でアト・シザルがスペルを使ったら、彼女を認める。約束してくれるか? それに、最初に彼女の能力について取り沙汰したのは君だろう?」
「はあ……それなら」
 バーネットは何か合点のいかない顔で答えた。
「ザイト区にまた悪魔が出たそうだ。出動準備を」
 一転して厳しい顔でサライが言った。
 首都カーティスの南部に位置するザイト地区。悪魔の出現率が最も高いことで有名である。そこに住む人々はいわゆる貧民に近い。悪魔が来るからなのか、貧民が多いために悪魔が来るのかは判らない。どちらにせよ、彼らの生活が脅かされているのは事実だ。
「隊長、この悪魔は何級でしょうか。また新しいタイプです」
 隣にいたもう一人の副官のリセラが尋ねた。翼がないから袋小路に追い詰めたはいいが、その悪魔の等級が判らなかったら全力を出さないといけない。そんな時、等級は大事だった。何人くらいで、どれくらにの力で倒せるか、それを知るために悪魔のランク付けがあるのだ。
 今日の悪魔は確かに見たことの無いタイプだった。猫のような顔に、毛の無いごつごつした皮膚、長い尾に、体に対していささか大きすぎるように思われる後ろ足。
「第三級くらいか……」
 サライは呟いた。真っ直ぐにこちらを見据えた悪魔の眼はサライと同じ薄紫だった。サライはそれを見て、近親嫌悪の気分になった。
「足の大きさから見てかなりの跳躍力があるはずだ。接近戦は無理だな。矢部隊を」
「はっ」
 剣を持った隊員と、弓矢をつがえた隊員がさっと入れ替わり、サライの合図で一斉に矢が雨のように降り注ぐ。
「ギャァウッッ」
 悪魔が叫び、一度大きく跳ねた。そのまま地面に落ちる。
「止め!」
 サライがまたさっと手を挙げると、彼らはぴたりと矢を射掛けるのを止めた。
「殺ったか……?」
 隊員の誰かが呟いた。全員が肩の力を抜いた途端、矢を体中に受けた悪魔が、ばねで弾かれたように飛び上がった。
「上だ!」
 皆が空を振り仰いだ。しかし真昼の太陽に瞳を射られ、一瞬目の前が真っ暗になった。
黒い影が自分目掛けて落ちてくるのを、サライは成す術もなく見ていた。
(狙って……いた?)
 サライはそう思った。そうだ。ずっとずっと、この悪魔は自分を見ていたのだ。でも何故? まったく唐突に胸に強打されたような激痛が走り、サライはそのまま地面に叩きつけられた。
「うあっ……」
 肩にしっかりと、はなすまじというように悪魔の爪が食い込んでいる。目を開けると、悪魔の顔がすぐ前にあった。なんともいえぬ臭気がただよう。胃の内容物が逆流しそうになるのを、サライはぐっと抑えた。腕を伸ばして投げ飛ばそうとしたのだが、思ったよりも悪魔は手強く、肩に食い込ませた爪をさらに強くしめつけたので、サライは短くうめいて諦めざるをえなくなった。
「隊長!」
「サライ様!」
 隊員たちが口々に叫ぶが、悪魔がサライの体の上にいる以上、手出しができない。サライは脚を振り上げて、どうにかして悪魔を振りほどこうとした。しかしその瞬間、悪魔の強靭な尾で脚を叩きつけられ、サライは鋭い叫びを上げた。
「こいつっ……隊長を放せッ」
 リセラがとっさに剣をかまえた。
「危ない! リセラ!」
 サライは止めようとしたが、遅かった。
 ばしっと鈍い音がして、リセラは向こうの壁まで撥ね飛ばされ、強かに頭を打ちつけたらしく、がくりと頭を垂れて気絶した。
「ここは……私一人で片付けるから……皆はほかの逃げた悪魔を追ってくれ」
 胸の上に子供か石でも乗せているようで息苦しかったが、サライはやっとそれだけを言った。
「しかし……」
「いいから! 早く……」
 一人、また一人と、後ろを振り返りながら去っていった。後にはサライと悪魔だけが残された。
「私は君に好かれてしまったみたいだな。でも悪いが相手はできない」
 サライは苦笑にも似た微笑みを浮かべながら剣の柄に手をかけた。そのとたん、周りが真っ暗になった。塗りつぶされてしまったように、突然まわりの景色――薄汚れて落書きだらけの民家の壁も、さっきまで見上げていた空も、全てが消えてしまい、地面すら感覚がなくなっていた。
「な……何だ……?」
 悪魔の仕業かと思って、顔を持ち上げた。素早く悪魔の手が彼の頭を掴んで、地に叩き付けた。目の中で火花が飛んだように感じ、その後で痛みがやってきた。叩き付けたということは、やはりこの暗黒は悪魔の作った幻影に過ぎないらしい。しかしそれがわかったとて、サライにはどうしようもなかったが。
 悪魔が顔を覗き込んできた。まさに猫の顔だった。それにしても猫にだったらある可愛らしさややわらかさは微塵もなく、ただぬるりとした質感の肌だけがあり、生理的な嫌悪感をもたらすだけだった。その時、サライは奇妙な点に気づいた。
 薄紫だったはずの悪魔の瞳が金色に変わっていた。
(私と……同じ?)
 冷たいものが背中を通り抜けていった。激しい感情の波――とくに怒りや悲しみ――によってその色を薄紫から金へと変える、自分の瞳。それと、同じだった。悪魔が笑うかのように牙を見せた。
(当タリ前ノコト……貴方トワレワレハ仲間ナノダカラ)
 頭の中に悪魔のものらしい声が響いた。
(仲間だと……?)
 サライは心の中で反駁した。それを読み取ったのか、悪魔は言葉を続けた。
(エエ、ソノトオリデス。貴方ハワレワレ闇ノ眷属ノ救イ主。ワレワレヲ慈シム唯一ノ光ノ君)
(何を世迷い言を……)
 かっとなって、サライはそう答えた。
(世迷イ言? ソレハ貴方ノ見方。マタワレラノ王ト出会イ、真実ヲ見ツメ、ワレラニ交ワレバ気ヅクハズ。貴方ガ何デアッタカ。オゾマシイ化ケ物ト貴方ハワレワレヲ呼ブデショウ。シカシソレハ貴方ニモ言エタコトデアルト……)
「嘘だ! 私の父も母も人間だ!」
 サライはさらに激しく言い返した。一番触れられたくないことを言われたからだ。悪魔は笑った。その顔で笑ったというならかなり不思議なことではあったが、たしかに笑ったとしか思えなかった。それも、冷たい嘲笑。
(ソウダト言イキレマスカ? ヒトニハ有リエヌ力ヲ持ッタヒトガヒトデアルト、ソレ以外ノ何者デモナイト、誰ガソウダト言エルノデス?)
 その言葉はサライの心を深くえぐった。
「やめろ……」
 のどは乾ききっていた。
(可哀想ナさらい様、イツモ寂シイノデスネ。デモ大丈夫。ワレワレノ偉大ナル王****様ハ、貴方トノ邂逅ヲ待チ望ンデオラレル。ズット待ッテイル……)
「やめろと言っているだろう!」
 やにわにサライは腰の剣を引き抜き、悪魔の背中を突き通した。全く油断していたらしく、悪魔が押さえていた肩の力がゆるんでいたのでそれが可能だった。しゃがみこんだ悪魔の右側の背中から左の胸にかけて突き通された切っ先は勢い余って彼までも傷つけていた。悪魔は驚愕したような眼でサライを見た。また例の声が響く。
(ドウシテ……ナゼ……)
「私は……人間だ。誰に何と言われようと……」
 サライは剣を握る手に力を入れた。そして地面に叩きつけるように思い切り剣を振り下ろした。斜めに右と左に分かれた悪魔はそのままサライの両側に落ち、辺りの景色もそれと同時に戻っていった。副官のバーネットがサライを心配して仲間より一足先に戻ってきたとき、自分と悪魔の血にまみれたサライがそこに倒れていた。
「隊長、隊長、しっかりしてください」
 その声に、サライはうっすらと目を開けた。
「バーネット……悪魔は?」
「全て処分しました。ご安心を」
「そうか……ご苦労」
 バーネットはすばやくサライの傷に目をやりながら答えた。サライはそれを聞いてから、やっと安心したように目を伏せた。やがて分かれて悪魔を追っていた隊員たちが戻り、サライは気を失ったまま兵舎まで戻った。
 サライの怪我はそう大したものではなかった。意識が回復してから医師の手当てを受けて、兵舎内にある自室に戻った。しかし、落ち着いた今でも――今だからか、あの悪魔の言葉が頭のなかで谺する。
(貴方トワレワレハ仲間……)
(ワレワレヲ慈シム唯一ノ光ノ君)
 サライはため息をついた。何だってあの悪魔はそんな事を言ったのだろうか。もしかしたら、自分のスペルが欲しいが為に……ただそれだけだったのかもしれない。大きすぎるスペルの力。確かに悪魔にとってそれは恐怖であり、また同時に貴重なエサでもあるから。昔からサライはそんな事情で悪魔に狙われ続けてきた。
 彼の物思いは慌ただしいノックの音で破られた。
「サライ、怪我は大丈夫ですか?」
 入ってきたのはルクリーシアだった。美しい黒い瞳が心配そうに潤んでいる。寝台に座っていたサライはさっと立ち上がって騎士の礼をとった。
「ルクリーシア殿下。このような場所におん自らおいでいただかずとも、お呼びいただければいつなりとも参りますものを」
 彼女はサライに近づいて、困ったように言った。
「かまいません。貴方は怪我をしているのですから。それにしても、貴方が第三級程度の悪魔に負傷させられるなんて」
「数ならぬ私の身に、殿下の温かき心遣い、真に有り難く存じます」
 サライはあくまで礼儀正しかった。思ったよりは軽いようだ、とルクリーシアの心配そうだった愁眉が少しだけ開く。
「殿下、殿下に一つお尋ね申し上げたいことがございますが、宜しいでしょうか?」
 突然の質問に、ルクリーシアはちょっと首を傾げてから、「どうぞ」とだけ言った。ルクリーシアも妹同様に魔道師の資格を持っている。悪魔のことならば、魔道師の資格を持つ者に聞くのが一番良いだろうと思われた。
「悪魔が人語を解することはありえますか」
「それはレウカディアのほうが詳しいかもしれませんわね。私の知るかぎり、人語を解しているのではないかと思われる例は二、三件ほどあります」
 そうか……とサライは思った。それから本題に入った。
「今日……悪魔に話しかけられたのです。多少ぎこちない発音でしたが、確かに悪魔が喋ったのです。『貴方は我々の仲間です』と。どう思われますか」
 冷静なルクリーシアが驚いているのは何となく判った。
「そんな事があるのでしょうか……」
 ルクリーシアはそう答えるしかなかった。聞いたことのない事件だった。もしもサライの言う通り、人語を解し、話すことができる悪魔がいるのだとしたら。それは恐怖以外のなにものでもない。
「私が見聞きしたもののなかで、いままで喋った悪魔はいません。新種だと思います」
「ありがとうございます、殿下」
「いいえ。貴方のお役にたてたならそれでいいのです。では……お大事に」
 ルクリーシアは立ち上がった。供の侍女たちもいたが、サライはルクリーシアを双子宮まで送っていった。そして彼女の居室の前で辞そうとしたときであった。
「……サライ様」
 ためらいがちな細い声が聞こえた。それは後ろの方からだった。ルクリーシアがそちらを見て、何かを見つけたときのような声をあげた。
「アト。どうかしたの?」
 ルクリーシア付きではないが何度かサライから話を聞いていたし、見ただけで判った。
「あの……サライ様、お怪我をなさいませんでしたか?」
 その一言に、二人は思わず顔を見合わせた。彼が負傷したことはまだ隊員たちと医師、皇帝と皇女、そしてサライ自身しか知らないし、サライはそのとききちんと服を着ていて、包帯は見えなかったのだ。
「ああ、少しね。どうしてそれを……?」
 サライが尋ねた。アトは困ったように眉を曇らせ、答えた。
「その……サライ様が怪我をなさるのが、見えたので。……頭の中に……」
「見えた?」
(この子は私の怪我を……予知した?)
 貧血でも起こしたように、サライの目の前が赤く染まっていった。足ががくがくして立っていられなかった。どさっと重いものが落ちる音がしたが、倒れたのが自分であることにサライは気づいていなかった。
「サライ様、どうしたんですか」
「早く医師を!」
 さすがにルクリーシアはすぐ落ち着きを取り戻してアトに命じた。倒れたときにぶつけてはいないか確かめて、ルクリーシアはサライの頭をそっと自分の膝に乗せた。アトが医師を助手を連れて戻ってくるまでのその短い間、ルクリーシアはじっとサライの顔を見つめていた。
(なんて……完全と言う言葉がよくにあうひとなのかしら)
 ルクリーシアはいとおしげにサライの髪に指をうずめた。
(あなたがいなければ、私は心穏やかにパリス様を愛せたのに)
 もうすぐ、ルクリーシアは生まれたときからの許婚である隣国メビウスのパリス皇子に嫁ぐ。ルクリーシアは彼を、必然として愛している。けれども、八年前のあの日彼女の目を奪ったサライは、その思いとは全く異質なものとして彼女の心を占める。
「姫様! お医者様を呼んでまいりました!」
 ルクリーシアの苦しい物思いはふいに破られた。しかし彼女は動転した様子のかけらも見せはしなかった。まさか皇女の部屋に寝かすわけにはいかなかったので、サライは医師の助手らの手で使用人の休む部屋に運ばれた。
「ご苦労だったわね」
「い、いえ、滅相もございません」
「そう……ありがとう」
 なぜかしみじみと、ルクリーシアはつぶやいた。そしてサライの脈を取っていた医師のほうに向き直って言った。
「バルバトス先生……。サライは大丈夫でしょうか?」
「ただの過労でございましょう。カリフ殿もまだお若いのに、血気盛んな兵隊たちをまとめていらっしゃるのですから、疲れもいたしましょう。まあ大事ではございません。黒蓮の睡眠薬を処方いたしました。少し眠られれば、なにぶん若い男の方ですからすぐによくなります。では」
「ありがとう。追って礼をさせますわ」
 老医師はサライの顔を物珍しげに眺めていた助手どもをたしなめると、一礼して部屋を出て行った。それを見送るとルクリーシアはほっとため息をついて、彼の寝かされている寝椅子の脇に腰掛けた。
 サライは黒蓮の睡眠薬で死んだように眠っていた。同年代の部下たちは鼾でもかきそうなものなのに、寝息の音も聞こえないくらい静かに眠っている。ルクリーシアはしばらくして立ち上がった。
「静かにしていたほうがよいでしょうね。行きましょう」
「はい」
 アトもルクリーシアに続いて、部屋をそっと出て行った。アトの予知の話を、アト自身もそうであったがルクリーシアもすっかり忘れていた。彼女には彼女の思いがあり、アトにも自分の仕事があった。
 一方、精鋭軍第一隊の兵士達は、自分たちの敬愛する隊長が過労で倒れたと聞かされて、自分たちにも責任がないわけではないとしゅんとしていた。
「隊長でも疲れるんだな。あの人でも人間なんだ」
 誰かがぽつりと言った。たちまち、大部屋の中は騒がしくなる。
「サライ様は何だってできる方だぜ? 貴族じゃねえ俺だって一応、ここに来てから仕込まれちゃいるが、ああも貴族的には振る舞えねえな」
「あの人は生まれつきの貴人だ。剣は強いし、その手で楽器も弾けば歌も歌える。姿形も何処かの姫君みたいに綺麗だ。だからこそたまに倒れるくらいの欠点があったほうが人間味が出るってもんだよ」
「それもそうだな」
 皆がそうやって噂をしている間、バーネットは一人物思いに沈んでいた。本当に、あのエレミヤの少女にスペルがあるのかと。


  前へ * 次へ

次へ
前へ
inserted by FC2 system