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告白


 愛してるなんて上っ面の言葉、百万回言ったって、ほんとの気持ちなんかわかりゃしないわ。
 どんなに高価な宝石だって、目に見えない気持ちの代わりにはなりゃしない。
 わたしのためにあなたが死んでみせたって、馬鹿な人ねと哂うだけよ。
 それでわたしが救われるとでも思っているの? だとしたら随分な思いあがりだわ。
 あなたはそれで満足かもしれないけれど、わたしの身にもなってよ。
 返すことのできないものを与えられても、困るだけなのよ。
 そんなのあなたの自己満足だし、そんなのに付き合う気はないの。
 だって本当のところ、あなたのことこれっぽちも想ってないのよ。


 だから
 「君のためなら死ねる」なんて言わないで。



春に


 春を希望の象徴としたのはいったい誰だったのだろう。
 誰がこの忌むべき季節を光と希望に満ち溢れていると最初に形容したのだろう。
 春は美しい雪の結晶たちを見るも無残に融かし崩し、跡形もなく流し去る。
 きんと張り詰めた朝の空気の緊張と、冷たい陽射しを奪い去る。凍える夜、静かに降り積もってゆく細かなダイアモンドの粉にも似た雪の軋む音を聞く、その静謐な楽しみを奪う。
 春は忌むべきものだ。希望と光の名のもとに大地をぬかるませ、溶かし、美しい冬の名残を泥で汚す。他のどの季節が、前の季節の美しさを踏みにじろう?
 それだけでも、春は罪深いのだ。



Mary Jane


 久しぶりだね、メリー・ジェーン。
 また今年もこの町に戻ってきたよ。
 去年の今頃だったね、君と僕が出会ったのは。
 空の色も風の匂いもあの時と同じ、変わらない。
 あの夏の日々を憶えている?
 僕は何一つ忘れちゃいないよ。
 輝く緑の丘の上で、僕がハーモニカを吹いて、君が手拍子しながら踊るジグ。
 踊り疲れたら川辺で一休み。川を下る真っ白な蒸気船に手を振って、見知らぬ旅人たちが手を振り返す。そんな、つまらないことに僕らはずいぶん笑ったね。君がいれば何もかもが楽しかったよ。
 君が教えてくれたあの曲、だいぶ上手くなった。僕も踊れるようになったと言ったら、君は驚くかな?
 あれからこっそり練習してたんだ。
 この丘で君と踊りたくて。


 さあ起きて、メリー・ジェーン。
 たしかに昼寝日和だってことは認めるよ。
 だけど天気はいいし、気分は上々。
 踊るにはもってこいの日じゃないか。


 一緒に踊ろう、メリー・ジェーン。
 君の亜麻色の髪は光を浴びればまるでお日様のよう。
 素敵な君の青い瞳を見せて。
 芝生の下で眠ってなんかいないで。





 空が墜ちてきて僕を押しつぶそうとしているんだ
 君の空はまだ青いの? 僕の空は違うよ
 あんなに毒々しい赫じゃないか
 あれは空の奴が今まで押し潰してきた人の血だ
 血の色の空だよ。
 ここまで僕は耐えてこられたけれど
 今度はもう駄目かもしれない、そんな気がする
 ああそれでも、空に殺されるのは厭だね


 そう言って君は笑った
 君があれからどうなったのか私は知らない
 空があれからどうしたのかも私は知らない
 ただ一つ確かなことは
 私の見る空も赫に染まってしまったということだけ



2010.4.20〜7.3御礼文
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