何かが空を


 Kさんが結婚して間もなく、妻の妊娠が分かった。結婚後はKさんが住んでいるアパートに妻が越してきてそのまま住む予定だったのだが、子供が生まれるとなるとそのアパートでは狭すぎる。そんなわけで、新婚早々Kさん夫妻は物件探しや引っ越し準備などで忙しい日々を送ることになった。
 一緒に暮らし始めた頃から、K夫妻は二人して妙なものを見るようになった。ふと空を見ると、飛行機や飛行船、鳥のどれでもない「何か」が空を飛んでいるのだ。何なのかよく分からない、空を飛んでいる物。つまり未確認飛行物体、UFOである。
 形や飛び方などは様々だった。よくある円盤型はもちろんのこと、灰皿のような形に葉巻型、光っているもの、光らないもの。一つだけで飛んでいたり、複数でばらばらに飛んでいたり、編隊飛行していたり――。
 そんなものを、K夫妻は出かけるたびにと言ってもいいくらいに見た。あまりよく見るので、証拠写真を取ろうとカメラを持って出かけたりもしたのだが、そんな時はなぜか現れないのだった。
 中でも印象的だったのは、高速道路を走っている時に見た葉巻型UFOだそうである。最初は飛行船だと思ったのだが、飛行船なら当然あるべきゴンドラ部分や尾翼が見えない。しかもガスが入っているはずの部分に窓が一列に付いていて、そこに人影があるのさえ見えた。それほど近いのにエンジン音らしきものは全く聞こえず、時速百キロ近くで走っている自動車にぴったり併進できる速さは明らかに飛行船のものではなかった。
 普段は「また見えた!」と面白がっていたK夫妻だったが、この時ばかりはさすがに恐ろしくなったそうだ。
 それからもUFO目撃は続いたが、不思議なことに子供が生まれたあたりからぱったり見なくなってしまった。二人は初めての子育てに忙しい毎日を送るようになり、見なくなってしまったものは話題に出ることもなくなった。
 数年後、早めの中二病を発症した娘が「自分は宇宙人だ」などと言い出し、この娘の誕生前にやたらめったらUFOを目撃していたことを思い出すことになると、二人には知る由もなかった。


 ちなみに、そんなこんなで「お母さんのお腹の中からUFOを呼んでいたんだな」などと言われる私自身は、UFOを見たことが一度もなかったりする。


(2015.8.10)

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